お読みいただいている皆さんありがとうございます。プロリハ研究サロンを運営しています、理学療法士の唐沢彰太です。
視覚と手の行為は強いつながりを持っています。針の穴に糸を通す、文字を書く、洗い物をする…目でしっかり見ながら行うことで高い精度を実現しているのは言うまでもありません。
手に限らず足でも目との協調は重要で、ボールを蹴るなど限定された行為では視覚は必須です。ですが階段を上る、歩くなどリアルタイムで足をみながら行わない行為の方が足では圧倒的に多く、手とは明らかに視覚の使われ方が異なっています。
そこで今回は、この目と手の協調についてリハビリの経験談を踏まえて書いていきたいと思います!
手と足の視覚の役割の違い
冒頭で書きましたた通り、手の行為には視覚が大きく貢献しています。見ながら書いた文字と目を閉じて書いた文字のきれいさを比べれば一目瞭然です。一方足では、必ずしも視覚が重要な役割をしているかというとそうでもありません。これはどういうことなのでしょうか?
そもそも行為において視覚がもつ役割は、物体そものもと位置を知ることです。もう少し分かりやすく言うと、物がどこにあるのか?とその物が何なのか?です。
例えば食事中にのどが乾いたら【どれがコップなのか】また【コップがどこにあるか】が分からなければなりません。これを知るためには視覚がもっとも適切です。またサッカーをしている時ではボールがどこにあるのかを視覚で捉えて足を振りぬきます。
このように、物体に対して手や足を向かわせていく時に視覚は大きく貢献します。ここまで手と足で大きな差はありません。ですが、【物を扱う】つまり【道具を使用する】点で手と足で大きく異なってきます。<ペンで名前を書く>、<箸でご飯を食べる>、<スマホでスワイプ>するなど手は道具を使用します。この時には道具を動かしたことによる様々な【変化】を視覚で捉える必要があります。加えて、道具と環境との作用の状態も視覚で認識する必要があります。
例えば<ペンで名前を書く>では、道具であるペンを動かしペン先が正しく動いているのか、またペン先が動いたことで紙に正しく文字が書かれているかの2つを視覚で確認していることになります。よって手の行為は目と協調することによって精度が上げられのです。
では足ではどうなのでしょうか?ボールを蹴るなどの行為以外において、視覚はどの様な役割を持っているのでしょうか?それは<予測>です。歩行、階段昇降において視覚は「これから歩くところの環境を把握しどう歩くのかを予測する」役割を持っています。これは、歩いている時は数メートル先を見ていることや階段を下るときは数段先を見ていることからも容易に想像できます。
このように手と足では視覚の役割が異なっています。特に手では視覚が行為の質そのものを左右してしまうほど重要になっています。この目と手の協調を実感した患者さんについて書いていきます。
視覚性探索の持つ不思議
補足運動野を損傷すると【病的把握反応】がみられることがあります。握ったら離せない現象が主症状ですが、実は視覚が誘因になる現象が報告されています。目で見た物に無意識でリーチングしてしまう現象です。
私が経験した症例もこの現象がみられていました。この方は把握反応と視覚性探索反応がみられていました。つまり手の触覚が加われば握ってしまい、目で見たものへリーチングしてしまっていました。この経験は視覚と手の関係性について考えていくには十分なきっかけでした。
大切なのは介入において、視覚をどう使っていけば良いのか?です。脳卒中においては自分の手をみながら注意深く動かしてしまう、運動器疾患においては痛みに注意をしながら視覚性注意が十分に働いていません。このようにどの疾患においても【視覚をどう活用するか】は非常に重要です。そのことを私はこの患者さんに教えてもらいました。
皆さんも介入における視覚について考える機会になれば幸いです。