お読みいただいている皆さんありがとうございます。プロリハ研究サロンを運営しています、理学療法士の唐沢彰太です。(自己紹介はこちらから→唐沢彰太って誰?)
左大腿骨頸部骨折では、右下肢を【健側】といい左下肢を【患側】といいます。これは健康な方と怪我した方で表していてわかりやすいですし、実際に臨床場面でも使われています。一方、脳卒中などで片麻痺になった場合に、左半球損傷では右側を【麻痺側】といい、左側を【非麻痺側】といいます。これも麻痺の影響がある側と少ない方とで表しているのですが、非麻痺側を【健側】と表すことがあります。ですがこれは大きな誤解を生む可能性があるんです…。
そこで今回は、非麻痺側においても問題が生じることがあるケースをもとに、健側と表現することで生じる誤解について書いていきます。
皮質脊髄路の特徴から考える
随意運動に必須となる<皮質脊髄路>ですが、損傷すると運動麻痺を引き起こします。片麻痺は、一般的には運動麻痺のことを指しているため皮質脊髄路の損傷が主原因と言えます。この皮質脊髄路ですが、左半球の運動野を中心とした皮質を起始とした線維束は延髄の錐体で交差して身体の右側の運動を制御しています。右半球も同様に交差して、左側の運動を制御しています。これが影響して、損傷側とは反対側の身体に麻痺が生じるのですが、この交差は100%の線維側がしているわけではなく、10%前後(文献によって若干の前後あります)が交差していないことが分かっています。つまり左半球から出た神経束が身体の左側にも繋がっており、制御しているんです。
この<非交差の皮質脊髄路>が、非麻痺側が健側ではない1つ目の理由です。通常身体の左側は【左半球が10%】【右半球が90%】制御していますが、脳卒中によって左半球を損傷すると通常を100%とすると、【左半球の10%】が障害されている可能性が出てきます。このことから、健常時よりも非麻痺側の運動がやや行いにくくなることがあります。ですが、麻痺側の動かしにくさが顕著で比べたときに動かしにくさを実感できていないかもしれません。
よって非麻痺側であっても、自覚がなくても評価をすると問題があった場合は、健側とは言えません。
脳のラテラリティ(側在性)
皮質脊髄路の特徴とはとは別に、脳のラテラリティも非麻痺側が健側ではないと言える理由となっています。例えば失行症が、このラテラリティによって非麻痺側にも問題を引き起こしています。失行症は高次脳機能障害の1つで、左半球損傷で頻回に生じます。その症状のほとんどは、麻痺側の右側だけではなく非麻痺側の左側にも生じます。これは、非麻痺側で模倣を行ってもらった時に模倣が出来ないことからも明らかです。
つまり、脳は左右で機能が全く異なっており、左が損傷すると左半球が持っていた機能が失われ身体全体に問題が生じます。左片麻痺であっても右側にも問題が生じるんです。そうなると、非麻痺側を健側と言うのは誤解を呼びますよね。
いかがでしたでしょうか。言葉には強いニュアンスやイメージがついているので、日頃何気なく使ってしまう用語でも、気を付けないといけません。患者さんはもちろんご家族やチーム間でも誤解をうまないよう気を付けて使う必要がありそうですね。
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