人は様々な道具を使用して、生活を便利かつ豊かにしてきました。その中で、道具使用に適した知覚を獲得してきたと考えられます。
例えば、箸を使って食事をしている時、食べ物がどんな材質なのか、実際に手で触れなくても箸で触れることで知ることが出来ます。硬さはもちろんのこと、摩擦(つるつる、ざらざらなど)や大きさも分かります。このように、実際に触れていなくても道具を通して環境を知ることが出来る現象が生じます。
リハビリテーションの現場でも、杖を使い慣れてくると床が平らなのか斜めなのかが分かったり、杖のついている位置が自分からどれくらい離れているのかまで分かる患者さんに出会います。また、杖先のゴムのどこが床に触れているのかもわかり、あたかも杖が自分の身体の一部になったかのように、色々なことを知覚出来るようになります。
この現象から、知覚は身体表面のみならず、道具を通してもいろいろなことを知覚出来る能力を持っていることが分かります。脳卒中後の患者さんの多くは、道具を持っている【手】に集中してしまい、本来持っている道具を通した知覚が出来なくなっています。これは、注意を向ける対象が道具ではなく自分の手になっており、実際の行為の時の注意の向け方とは異なってしまっています。日常生活の行為を改善していくためには、この辺も意識して訓練を行っていく必要があります。