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プロリハ研究サロンを運営しています、理学療法士の唐沢彰太です。(自己紹介はこちらから→唐沢彰太って誰?)
皆さんは【表象】という言葉を聞いたことがありますか?認知神経リハビリテーションではよく耳にする用語ですが、リハビリでは一般的な用語ではありません。
ではなぜ表象がリハビリに必要なのでしょうか?
今回は表象についてリハビリの視点から書いていきたいと思います。
神経相関と表象
前頭葉は思考や実行、頭頂葉は空間や知覚、後頭葉には視覚、側頭葉には聴覚や記憶などのように脳には機能局在があります。ですが、日常生活内ではこれらが独立して働くことはなく、それぞれ相互に情報をやり取りすることで人は生きています。この相互のやり取りをスムーズに行うために脳にはネットワークが張り巡らされており、行為によって使用されるネットワークが異なります。
例えば、何かを話している時のネットワークを染色して可視化すると、脳全体が働いている事が分かります。この時のネットワークの形は話している時特有の形をしており、歩いている時には歩いている時の、食事をしている時には食事をしている時のネットワークが存在していることになります。
この様に行為を遂行している時の脳では、神経が互いに関係しあい活動していてこの働きのことを神経相関と言います。今回のテーマである表象は、この神経相関の考え方に似ており認知神経リハではこれに時間や環境などの要素が加わってきています。例えば、朝ご飯を食べている時に使っている、あのカップの手触りのような感じです。この時のカップの手触りを処理している時の脳の表象は、その朝食の時にしかないんです。
詳細は次に書いていきます。
行為特異性
さて話は少し変わりますが、私が高次脳機能障害や脳科学について勉強していると、下頭頂小葉が頻繁に出てくることに気付きました。下頭頂小葉はいろいろな役割があるんだな…とその時は思ったのですが、脳のネットワークについて勉強していくと新しい解釈が出来ることに気付きました。
それは、下頭頂小葉にいろいろな役割があるのではなく、下頭頂小葉がどこの脳の領域と繋がっているかが重要だということです。例えば、下頭頂小葉を<A>とした時、BとCそれぞれとつながっているとします。つまり、ABとAC2つのネットワークがあります。ABとACそれぞれ異なる役割があるとすると、Aは2つの役割を持つことになります。でもこの時大切なのは、Aが2つの役割があることではなく、AがBとCそれぞれとネットワークを持っていて、ABとACには異なる役割があるということです。
この事に気付いた時、身体にも同じことが言えるのでは?と気付きました。食事をしている時の肘関節とテニスをしている時の肩では求められる能力が全く違います。ということは、脳においても全く異なる処理が行われているに違いないと。
リハビリをしていると、リハビリ中は出来るのに生活では出来ない事が多々あります。これは、このことが関わっていると考えています。つまり、食事をしている時の神経相関とテニスの時の神経相関があり、これに文脈や環境などが加わった表象は行為によって異なっているんです。もう少し分かりやすくすると、テニスの時の表象に含まれている肩と食事の時の表象に含まれる方は、先述したような下頭頂小葉と同じくどこの身体部位と関係性を持っているのかが大切になるということです。リハビリの時にはリハビリの表象があり、その時の肩の表象と生活の時の肩の表象が異なっているために、リハビリでは出来るけど生活では出来ないと考えています。
この事を考えると、患者さんは今はあくまでリハビリであり、リハビリで得たものを日常生活に持ち込むのは自分だという意識が必要になります。もっと言うと、セラピストはそういうリハビリをしなければならないということです。
表象という言葉は、リハビリの更に深いところを考えさせてくれる非常に良い言葉だと思っています。この事を念頭にリハビリを進めていけると良いなぁと思います。