お読みいただいている皆さんありがとうございます。
本サロンを運営しています、理学療法士の唐沢彰太です。
(自己紹介はこちらから→唐沢彰太って誰?)
私は、自己紹介にも書いてあります通り、脳血管疾患の後遺症や慢性的な痛みに悩まれている方のリハビリを中心に行っています。
脳血管疾患も慢性痛も脳が関与している疾患のため、今自分が行っているリハビリは<患者さんが脳のどこを働かせているのか?>をとても重要視しています。
そのことを理解していく手掛かりは患者さんの話されることや振る舞いの中にあります。(こちらもご参考ください⇒患者さんの1人称)
そこで今回は、脳の基本的な構造と役割について簡単に整理し、それを臨床に活かしていくポイントを書いていきたいと思います。
脳の歴史とリハビリテーション
脳に関しては学生の頃、解剖学や生理学などの授業で習うと思います。その時に習う脳は「機能局在論」と呼ばれる理論が多いのではないでしょうか?
前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉それぞれに機能があり、ホムンクルスはこの代表例です。この機能局在論の起源は、18世紀まで遡ります。
その頃ヨーロッパを中心に、フランツ・ヨーゼフ・ガル(Franz Joseph Galll, 1758-1828)の「骨相学(phrenology)」と呼ばれる理論が流行していました。
18世紀から19世紀にかけて西洋で流行したこの学問は、専門家たちからは「脳の生理学」と呼ばれていたほどでした。
骨相学については、多くの書物がありますので詳細はそちらをご参考いただければと思いますが、この骨相学が脳の機能局在論の走りと言われています。
脳損傷の新しい視点
その後、ペンフィールドやブローカ、ブレインなど多くの研究者の功績によって様々なことが分かってきた脳ですが、わかってくることが多くなればなるほど脳に関する情報はより細かくなっていきます。
脳に関する研究を行っている研究者は理解できるかもしれませんが、臨床現場で働いている理学療法士や作業療法士たちにとっては、到底理解出来ない困難な情報もどんどん増えてきています。
そうなると、視床はどんな役割があるか、下頭頂小葉は何をしているかなど部分的な知識のみが独り歩きしてしまい、局在的な機能のみの知識が増えて行ってしまいます。。
この様な脳科学の知見は非常に素晴らしく、医学の領域に対する貢献も計り知れなと思います。
ですが、いざリハビリにこのような脳科学の知見を取り入れるのは容易ではありません。
これらの知識は、脳画像との親和性の高さは言うまでもなく、予後予測や症状の予測に役立てるなど全てがリハビリに持ち込むことが難しいわけではありません。(こちらもご参考ください⇒高次脳機能障害と行為の関連)
では、脳画像にいかす他にリハビリに取り入れられる場面はあるのでしょうか?
そこで1つ、視点を変えて考えてみます。
脳出血や脳梗塞の様に、脳を直接損傷した場合や、慢性痛などの様に器質的に脳が変化していく場合では、「どこを損傷したのか」「どこが機能不全を起こしてるのか」に着目します。
ですが、脳を損傷したり機能不全を起こしたりしている患者さんは、損傷や機能不全を免れた部位で生きています。
つまり、患者さんの振る舞いや一人称(言葉)は、
- 損傷している脳部位が悪さをしている視点
- 生き残っている部位が何とか頑張っている視点
の2つの考え方があるのです。
例えば、側頭葉を損傷すると言語による「意味」に関する認知に問題が生じることがあります。(コップを見れば「これはコップだ」と言わなくて頭では理解しています。このように自分の感覚を知覚し、それを認知することを意味付けと言います)
そうなると、「意味付け」をしないように脳は活動していくという考え方です。(コップを見てもコップだという意味付けではなく、水を飲む道具のような具合。もちろん反対も考えられる)
この考え方に基づくと、患者さんの話す言葉や振舞いは、今生き残っている脳でどうにかして意図通りに行為を遂行しようと動いた結果と考えられます。
つまり、患者さんの振る舞いや話す言葉を紐解いていけば、患者さんの生き残っている脳の状態を理解できて、どういうリハビリをすれば患者さんが理解でき改善に向かっていけるのかを考えられるようになります。
反対に、正常の行為や振舞いと患者さんの行為や振舞いを比較することで、実際の患者さんの問題点(ネガティブ面)と得意な点(ポジティブ面)を抽出することが出来るのです。
このことを応用すると、リハビリの介入場面で患者さんの脳のどこが働いているのかを推測できるようになります。
患者さんの思考を思考する
介入中に患者さんが何を考えているのか?想像したことはありますか?
触れている感じが分からない…動いている感じがわからない…動かし方がわからない…患者さんはリハビリをしながらいろいろなことを考えています。
私たちセラピストは、患者さんの感覚-知覚を通して接しています。今患者さんが何をどう知覚しているのか?を考えることは、患者さんの脳を想像することと非常に近しいプロセスになっていきます。
例えば、麻痺側の肘関節をセラピストが他動的に屈曲伸展しながら「動いているのはわかりますか?」と聞いたとします。この時セラピストは、患者さんの前頭葉と頭頂葉を中心に働かせていることになります。
患者さんは動いている【だろう】肘関節に注意を向け、感覚を処理する頭頂葉からくる情報を前頭葉で待つことになります。
この時、患者さんには、
- 肘に注意を向けるべきなのか
- 肘が動くことで生じる感覚に注意を向けるべきなのか
- 肘を動かすことで移動する手に注意を向けるべきなのか
の選択肢が生じることがわかります。このどれに注意を向けたのかを患者さんに聞くことで患者さんの注意の癖を掴むことが出来ます。
このように、自分が今脳のどこに働きかけているのかを念頭に置いて、患者さんに質問をしながら、また振舞いを良く観察していくことが脳血管疾患の患者さんや慢性疼痛の患者さんとのリハビリでは特に大切です。
科学が発展する中、リハビリテーションには今以上に情報があふれかえっていきます。
それらの情報をいかに自分の臨床にいかしていけるのかが、今後のセラピスト人生を大きく変えるかもしれません。
自分の臨床にどういう情報がいかされているのかが、自分だけの臨床の基盤になっていきます。
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